| ソウルオリンピック卓球チームの監督から、試合中の選手の表情の分析をしてくれないかという依頼を受けたことがありました。調子の良いときや悪いときの表情や動作を分析し、表情や動作を調整することによって、ベストコンデションでオリンピックに臨もうという意図があったようです。 そこで、新潟で行われたアジア選手権での日本選手の表情や行動をVTRで収録することにしました。試合終了後、ポジティブな表情や行動と、ネガティブな表情や行動に分けてVTRを編集しました。その結果、日本の選手は想像以上に失敗した時に顔をしかめたり、ぼやくなどのネガティブな反応を多くすること、反対に成功した場合は、喜びを表に出さない選手が多くいることが明らかになりました。
よく日本は恥の文化を持っていると言われます。謙遜することは美徳である。例えば、生徒が試験で100点を取った時や先生に誉められた時に、喜びを大げさに表わした場合、その生徒はクラスの生徒の冷たい視線を感じることになるだろうことは、容易に想像できます。また、不言実行は美徳であり、このようなタイプの人間は評価されます。反対に有言実行を目指すタイプの人間が、公言したことを実行できなかった場合は、それ見たことかと批判が続出することになってしまいます。このような雰囲気の下で育った選手が、喜びを大げさに表現しないのは、当然であると思われます。ここは日本なんだから日本のやり方があると言われればそれまでのことですが、本当にそれで良いのでしょうか。
指導者は、ゲームの流れを非常に大切にします。ゲームの流れを我がチームに向けるためには、成功に対して喜びを精一杯表現することが、必要だと思います。近年バレーボールやサッカー、アメリカンフットボールなどの競技では、喜びをかなり表現するようになってきました。選手が抱き合って喜んでいる姿を見た敵チームの選手は、やはり落ち込むと思います。この気持ちの違いがゲームの流れそのものです。
反対に、失敗した時の選手の行動はどうでしょうか。私たちが分析した卓球選手にはいなかったのですか、失敗した時にラケットを投げるテニスプレーヤーやシュートに失敗したサッカー選手が頭を抱えてその場に座り込んだり、エラーをした野球選手かグローブを投げつける姿を、皆さんは幾度となく見られたことと思います。このような行動も、選手が自分自身でそのプレイに失敗したことをふっ切って、次のプレイに生かそうとするけじめをつけている行動だとしたら決して好ましくない行動とはいえないでしょう。単に失敗を悔しがるだけでなく、自分の失敗で相手に流れそうなゲームの流れを断ち切るための行動として、自分から派手に悔しがるのもいいのではないでしょうか。
このように自分の感情をストレートに表現するのなら、失敗した時に悔しがるだけでなく、成功した時に大声を上げて喜ぶといった行動が、自分の気持の切り換えや自分のぺースを作り出すことにつながると思われます。
分析を通して明らかになった事は、他にも沢山ありました。ポーカーフェイスと言われる、ほとんど感情を表に表わさない選手は、成功したときには確かに無表情だけれとも、失敗したときには、やはり顔をしかめる等の表情の変化が確認されました。このように、ポーカーフェイスの選手も、行動や表情をコントロールする必要がありました。また、試合の流れと共に分析すると、サーブの前に足踏みをすると成功する選手や、調子か悪くなると、サーブの間隔が短くなる選手がいることも明らかになりました。このような選手には、サーブの前にかならず足踏みするように指示したり、サーブの間隔に注意するように指示しました。
以上のように、試合中の行動や表情を分折すると、その選手の心理状態が、かなりの部分把握できます。また、編集されたVTRを見ることによって、選手は何気なく行動していた自分の表情に驚くと共に、表情や行動をコントロールすることの必要性を、実感すると思います。一般的には、先に感情があって、その感情が表情や行動に表われると考えられます。しかし、楽しそうに振舞っている内に本当に楽しくなったり、寂しそうな素振りをしていると、本当に寂しくなってしまうことかあります。行動や表情を意識することによって、ベストコンデションで試合に挑む事ができるはずです。
それでは、一度選手の試合中の行動や表情をVTRに撮影して、じっくり見てみてください。きっと多くの有益な情報を、そこから取り出すことができると思います。
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